
2026年4月10日、ヨーロッパの入国が「ハンコ」から「顔と指紋」に変わった
2026年4月10日、EUの新しい出入域システム EES(Entry/Exit System:欧州出入域システム) が、シェンゲン圏の29か国で全面施行された。これまでパスポートに押されていた入国スタンプは廃止され、これからは 顔写真と指紋がデータベースに登録される 方式に切り替わる。
日本は対象。ビザなし渡航者であっても、シェンゲン圏に短期滞在で入る以上、空港のパスポートコントロールで生体情報の登録が必要になる。本記事では、制度の全体像と、2026年5月13日に実際にデンマーク・コペンハーゲン空港で入国した筆者の体験を交えて、出発前に知っておくべきポイントを整理する。
EES(欧州出入域システム)とは何か
EESは、シェンゲン圏に短期滞在(180日中90日以内)で入る非EU市民の出入国を、電子的に記録するEUの国境管理システムだ。これまでの「パスポートにスタンプを押す」というアナログな運用を置き換える位置付けになる。
登録される情報は以下のとおり。
- 氏名・生年月日・国籍
- パスポート番号など旅券情報
- 顔写真
- 指紋(4本指)
- 入出国の日付と場所
- 入国を拒否された場合はその記録
データの保持期間は 3年間(入国拒否の場合は5年)。一度登録すれば、3年以内であれば次回以降のシェンゲン圏入国時には登録した生体情報との照合だけで済む、というのが基本的な仕組みだ。
目的は大きく3つ。① シェンゲンの90日ルールを超えるオーバーステイの自動検知、② 国境管理の効率化、③ テロ・組織犯罪対策。日本人旅行者の視点で見れば、「短期滞在の出入国がEU横断のデータベースで管理されるようになった」 と理解すればよい。
いつから・どの国で適用されているのか
EESのスケジュールはこうだ。
- 2025年10月12日:シェンゲン各国で段階的に運用開始
- 2026年4月10日:シェンゲン圏29か国で全面施行(全ての対象国境で稼働)
対象は、シェンゲン協定加盟25か国に加え、関連4か国(アイスランド・リヒテンシュタイン・ノルウェー・スイス)の合計29か国。デンマークはもちろん含まれており、コペンハーゲン空港も4月10日付で全面運用されている。
一方、キプロスとアイルランド はEUに加盟しているもののシェンゲン圏外で、EESは適用されない。これらの国に入る場合は従来どおりのパスポートチェックが行われる。
EESとETIAS、混同してはいけない
ここで多くの日本人読者が混乱しているのが、EESとETIASは別物ということだ。違いを表で整理する。
| – | EES | ETIAS |
|---|---|---|
| 仕組み | 入国時の電子記録 | 渡航前のオンライン事前認証 |
| 申請 | 不要(空港で自動登録) | 必要(出発前にウェブ申請) |
| 費用 | 無料 | €20(18歳未満/70歳以上は無料) |
| 開始時期 | 2026年4月10日〜全面施行中 | 2026年第4四半期に開始予定 |
| 目的 | 出入国記録のデジタル化 | 入国適格性の事前審査 |
2026年5月時点で稼働しているのは EESのみ。ETIASはまだ始まっていないので、いま渡航する人がオンラインで事前申請する必要はない。米ESTAやカナダeTAをイメージすると分かりやすいが、それの欧州版がETIASだ。
注意:「EU入国の事前登録に料金を払ってください」と誘導する非公式サイトに注意。EES自体は無料、ETIASも公式は€20のみ。事前情報を入れるなら必ずEU公式アプリ「Travel to Europe」を使うこと。
日本人がデンマーク入国時に実際にすること
理屈はここまで。実際の動きを順を追って整理する。
- 飛行機を降りてパスポートコントロールへ向かう
- 「Non-EU/EEA」と書かれた列に並ぶ(EU市民の列とは別)
- 初回入国の場合:
- パスポートを審査官に提出、または自動キオスクにスキャンさせる
- 顔写真を撮影される(眼鏡・マスクは外すよう指示される)
- 指紋スキャナーに手を乗せ、4本指の指紋を採取される
- 必要に応じて滞在目的・滞在先・日数を確認される(従来どおり。ただしEES導入後は、生体登録のみで詳しい聞き取りが省略される運用も増えている)
- 2回目以降の入国(3年以内):
- 登録済みデータと顔認証で照合するだけ、所要時間は大幅に短縮される
1人あたりの所要時間は初回で 3〜5分 が目安だ。後述するように、空港・時間帯・便によって実際の待ち時間は大きくぶれる。
2026年5月13日、SAS便でコペンハーゲン入国してみた

ここからは筆者自身の体験談だ。
筆者が乗ったのはSAS(スカンジナビア航空)の羽田—コペンハーゲン「直行便」だった。だが、出発の段階からすでに雲行きは怪しかった。搭乗前からまず大幅な遅延。そして羽田で機内に乗り込んで席に着いたあと、機内アナウンスでこう告げられた。
「往路でデンマークから日本に飛んできた時点で、本来3名いるべきパイロットが2名しか乗務していなかった。このまま日本からデンマークまで飛ばすと労働時間規定をオーバーしてしまうため、途中、トルコ・アンカラでパイロット交代と給油を行う」
予定では13時間20分の直行便。それが突然、16時間超のフライトに変更 という展開だ。アンカラでも乗客は機内で待機したまま、パイロット交換と給油が完了してから再離陸した。搭乗前の遅延と合わせて、結果としてコペンハーゲン到着は 本来より約5時間遅れ、夜の22時ごろ になった。
このイレギュラーのおかげで、入国時間は本来の夕方からずいぶん後ろ倒しになり、ラッシュアワーのコペンハーゲン空港は経験できなかった という前提でこの体験談を読んでほしい。
到着ターミナルはSASの長距離便が入る非シェンゲン側(コペンハーゲン空港のターミナル3)。空港内に入り、いつものようにイミグレーションへ向かう途中で、去年来た時にはなかった機械 が目に入った。SNSなどでよく見る、顔認証や生体登録に使うであろう自動キオスクだ。EESの本番運用に合わせて設置されたものに見える。
ところがその機械、全部封鎖されていた。
筆者が並べる列としては、対人カウンターが1つしか開いていない。「自分で機械を操作して、それから審査官のところに進む」という流れではなく、従来どおり審査官カウンターに直接並ぶ動線 に戻されていた。例えるなら、10年前のアメリカ入国に近い感覚だ。
カウンターに着いてからの流れはシンプルだった。
- パスポートを提出
- 審査官が確認
- 「手をここに乗せてください」と指紋スキャナーに案内される
- 「眼鏡とマスクを外して、こちらのカメラを見てください」と顔写真撮影
- ちょん、ちょんと言われるがままにやって終了
印象的だったのは、滞在目的や来訪理由について一切聞かれなかった ことだ。「パスポートください」「カメラ見てください」「眼鏡外してください」とだけ言われ、文字通り数十秒で完了。従来の入国審査では滞在先や日数を確認されることもあったが、生体登録ができればそれ以上の聞き取りはしない、という運用に変わっているのかもしれない。
幸い、この便には日本人の乗客が少なかったらしく、ゆっくり歩いて行っても 前に並んでいたのは5人程度。カウンターが1つしか開いていなかったわりに、待ち時間は数分で通過できた。
ただ、これはあくまで筆者の「遅延便・夜遅め・乗客の少ない便」という3つの幸運が重なった結果だ。他の空港、たとえばラッシュアワーに日本人観光客(EU外の在住者)が多く乗る便などでは、自動キオスクで自分のパスポートをスキャンして指紋・顔写真を登録するのに、1〜2時間の列ができている という話も耳にする。コペンハーゲン空港でも今回は機械が封鎖されていたが、今後ラッシュアワーに到着する便については、自動キオスクを通る運用に切り替わる可能性が高い。
実際、X(旧Twitter)で各国のEES運用に関する投稿を眺めていると、北欧諸国の住民から「長い列に並ばされた」という不満はあまり聞こえてこない。一方で、ベルギー、フランス、ポルトガルあたりでは「入国審査に1時間以上かかった」「EESの自動キオスクが長蛇の列」という報告が複数見受けられる。同じEESでも、国・空港・時間帯・到着便の混雑具合によって体感はかなり振れ幅があるのが現状だ。
運用パターンも一様ではない。「先に自分でEESキオスクをタッチ操作してから、対人カウンターに進む」というフロー(これが本来の想定運用)で動いている空港もあれば、筆者の例のように キオスクは設置済みなのに封鎖されていて、結局すべて対人カウンターで処理される ケースもある。「EESが始まったから、どの空港でも同じ流れになる」と思って臨むと、現地で戸惑う可能性がある。
ひとことで言うと、「制度自体は重くないが、国・空港・時間帯次第で待ち時間は大きく変わる」。これがコペンハーゲン入国を実際に経験した正直な感想だ。
忘れがちな例外と特殊ケース
- 12歳未満の子ども:顔写真は撮るが、指紋は免除
- EUの長期滞在ビザ・居住許可保有者:EES対象外(従来どおりの審査)
- EUパスポートとの二重国籍者:EU側のパスポートで入国すれば対象外
- 同一空港の国際線乗り継ぎのみで入国審査を通らない場合:対象外
- 生体登録ができない/キオスクが落ちている場合:審査官が手動でバックアップ入力する運用になっており、実際に2025年秋の段階導入時にはプラハで手動対応が発生した
出発前にやっておくべきチェックリスト
- 帰国予定日から 6か月以上有効期限が残ったパスポート
- 復路の航空券、滞在先住所・予約確認書
- 海外旅行保険の証券
- シェンゲン圏90日ルール(180日中90日)に収まることの確認
- (任意)EU公式アプリ 「Travel to Europe」 で事前にパスポート情報・顔画像を登録しておくと、対応国の空港で時間短縮できる ※2026年3月時点ではスウェーデンとポルトガルのみ対応、デンマーク未対応
- ETIASは 2026年5月時点では不要(2026年第4四半期に開始予定)
ヨーロッパ内で乗り継ぎ便を予約する人は、時間に余裕を
EES導入で特に注意したいのが、ヨーロッパ域内で乗り継ぎ便を組む場合の所要時間 だ。日本からフィンランド経由でヘルシンキ→他都市、というルートは航空券価格の手頃さから定番だが、購入時点で乗り継ぎ時間が「15分」「30分」「1時間」程度しか確保されていない便も少なくない。
シェンゲン圏に入る最初の空港でEESの生体登録が走ると、ピーク時には入国審査に1時間以上かかる可能性がある。今までの感覚で短い乗り継ぎ時間を組むと、EESの列で次の便を逃すリスク が出てくる。
特に2026年は運用が始まったばかりで、空港側の処理速度も安定していない。日本からヘルシンキ経由でコペンハーゲンに入る人、パリ/フランクフルト/アムステルダム経由を使う人は、これまでよりも 意識的に乗り継ぎ時間を長めに取る ことをおすすめする。
よくある質問(FAQ)
Q. EESの申請にお金はかかりますか?
A. かかりません。空港で自動的に登録されます。事前申請も不要です。
Q. 顔写真や指紋を拒否することはできますか?
A. 拒否すると入国できません。
Q. 一度デンマークで登録すれば、次に別のEU国に入る時もそのデータが使われますか?
A. はい。シェンゲン29か国で共通のデータベースで管理され、3年間有効です。
Q. ETIASはいつから必要になりますか?
A. 2026年第4四半期(年末ごろ)に開始予定です。開始後は出発前にオンラインで申請し、€20を支払う必要があります(18歳未満・70歳以上は無料)。
Q. 乗り継ぎだけならEESは不要ですか?
A. シェンゲン圏に「入国」する場合は対象です。同一空港で国際線同士の乗り継ぎを行い、入国審査を通らない場合は対象外です。
まとめ:いまのEESは「重くない」、ただし年末からは事情が変わる
2026年5月時点のEESは、正直に言って そこまで大変な手続きではない。事前にウェブで何かを申請する必要はなく、空港で指紋と顔写真を取られるだけ。筆者のコペンハーゲン入国も、自動キオスクは封鎖されていて対人カウンターで5分ほどで終わった。
ただし、状況は 2026年末に変わる。ETIAS(事前オンライン渡航認証)が始まれば、出発前にウェブで申請し、€20を支払う手続きが追加される。今年の年末以降にヨーロッパ旅行を計画している人は、ETIAS開始のニュースに注意しておきたい。なお、18歳未満と70歳以上は無料なので、家族で渡航する人は対象になるかを早めに確認しておくとよい。
最新情報はEU公式のTravel to Europe、または外務省の海外安全ホームページで必ず確認のこと。
主な出典
- European Commission:EES will become fully operational on 10 April 2026
- Travel to Europe(EU公式)EES
- EU公式 EES FAQ(日本語)
- 外務省:EES(出入域システム)
- JETRO:欧州の入国手続きデジタル化10月12日運用開始
- Copenhagen Airport:Passport control
- The Local Denmark:Denmark’s EES biometric border checks
- The Local:EES border checks now fully implemented at Copenhagen Airport

